小説「スイーツ・スイーツ」第10回……理恵子の日記……
2017 06/19 08:39


7月××日。

佳奈恵が一般病棟の個室に移ったというので、
人命救助で表彰されるだろうというニュースとクラスの寄書きを持って見舞いに行った。

3階に着いたら、病室に入りきれない陸上部員が廊下まであふれていた。
室内からは佳奈恵のすすり泣きが漏れ、部長かマネージャーあたりの慰めの言葉が途切れ途切れに聞こえた。

再起不能、という言葉が聞こえた。……医師の宣告があったと考えるのが自然だろう。

まずいな、出直しだ。
自転車だから、気晴らしに図書館にでも行こうと思い、その場を離れようとしたら、病室の中から、制服の女子中学生が走り出てきて、私にぶつかった。

しかし、謝りもせずに、脱兎のごとく彼女は逃げる。

あの娘に違いない。確か名前は入江若葉――。

「捕まえて!」
佳奈恵が叫んだ。

高校の陸上部が取り逃がすはずはないが、それでも屋上(5階にあたる)まで追いつけなかったことに自信喪失した部員もいたそうだ。

私が屋上に着くと、部員数人がフェンスから若葉を引き離しているところで、やむを得ないとはいえ、かなり手荒だった。

泣き叫ぶ若葉は、地面に押さえつけられても、なお抵抗する。

仕方ないな。私はハンカチをその口に押し込んだ。
泣き叫んでうるさいし、舌を噛まれても困る。

それでやっとおとなしくなった若葉を病室へ護送した。

佳奈恵は般若の形相で、ベッドに半身を起こしていた。

部員から状況を聞いたあと、無言のまま、若葉を思いきり殴った。

「助けなきゃよかった! こんな命を粗末にする奴、助けなきゃよかった!」

血を吐くように叫んで、号泣した。
若葉も声をあげて、泣き崩れる。

どう収拾つければいいんだろう?
…………………………


(107 pv)

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